王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「すまないが、少し奥のソファを貸してもらえないだろうか」

突然の申し出に、エマは二の句を告げなかった。
真っ赤な顔をしたセオドアが大きな体で扉を塞いで、拝むように手を合わせている。

薬を売るために与えられた部屋は大きく、ソファを使われても支障がないと言えばない。


「女性とふたりきりで話して、人の噂になっては申し訳ない。ここならばエマも常にいるし、誰かが来ても薬の処方だと思うだろうし……」


顔を赤らめたまままくし立てるセオドアの後ろには、思わずため息を漏らすほど美しい令嬢がいた。


「構いませんけど、……何のお話ですか?」

「ちょっとした悩み相談だ」

「はあ」


女性はエマににこりと笑みを見せると、中へしずしず入っていく。


(まあ、……いいか)


ちょうど客が切れているタイミングだったので、エマ以外には誰もいなかったところだ。ふたりがソファに座ったのを確認してから、エマは出来るだけ離れた場所に椅子を置き陣取る。


「エマは信用できる娘です。さあ、お話ください、ヴァレリア様」

「えっと、どうお話すればいいのかしら。……私、さっきはどうかしていたのかも知れないわ」


令嬢はついては来たものの戸惑っているようだ。緊張からなのか顔がこわばり、着いてきたことを後悔している様子さえある。
エマは思い立ってお茶を入れることにした。

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