王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「実は、……王太子様のことなのです」
ヴァレリアは手を組んでモジモジとしている。
「私、お父様に、王太子妃になるようにと言われています。でも王太子様は私に興味がなさそうなんです。お父様にはもっと頑張って王子の気を引くようにと言われたけれど、私も何をどうしたらいいか分からないし」
「……あなたみたいな控えめで美しい女性は、何もしなくとも人が寄ってくるでしょうに」
セオドアは信じられない、といった様子だ。
エマも思う。今まで見た中でもとびきりの美人で、しかもしおらしい。女のエマでさえ守ってあげたいと思うような女性だ。男ならだれでも彼女を好きになりそうだと思うのに。
「そうなんでしょうか。きっとつまらないのですわ、私のような女は。王太子様に話しかけても、全然話が続かないのです。私の知っていることは、社交界の噂やドレスの仕立て屋についてくらい。王太子様はそのどれにも興味を示しません。王太子様が喜ぶようなプレゼントを渡すよう父に言われているのですが、全然思いつきませんし」
「ギ……いや、王太子様は贅沢だ。あなたのような美しい女性に想われているというのに……」
思わず言ってしまった、という風にセオドアは口を押さえた。
素直な褒め言葉に、ヴァレリアは笑ってぽつりと漏らす。
「……そんな風に褒めてくださるなんて、お優しいのね、セオドア様」
「いや。……いえっ、……ああ、俺は女性を褒める言葉をもっと勉強しておけば良かった。あなたは素敵ですよ。その柔らかい声を聞いていると、心が癒されるようです。……きっと、王子もあなたの良さにいつか気づきます」
セオドアの朴訥とした賛辞に、ヴァレリアは頬を染めたが、寂しそうに首を振った。