王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「私にいいところなんてありませんわ。私、恋というものひとつよくわからないんですもの。……ずっとお父様やお母様の言うとおりにしかしてこなかったんです。美しくあれ、控えめであれ。そうすれば王太子様は必ずお前を好きになる、とね。これまでそうすることに疑問を抱いたこともありませんでしたわ。……だけど、今回、王太子様が全く振り向いて下さらないのを見て、お父様やお母様の言うことは絶対ではないんだなと思い知りましたの。そして私、自分の魅力ってなんだろうって考えたんです。美しいと言われる顔と、贅を尽くしたドレス。……それは別に私のものではありません。お父様やお母様が下さったものだわ。私自身には、何の魅力もないのです……」
エマは聞き耳を立てつつ、驚いた。
貴族の令嬢に、不満なんて何もないと思っていた。まして、ヴァレリアは芸術品のようにきれいなのだ。そんな美しい女性が、自分の魅力について悩むことがあるなんてと思ったらすごく不思議な気分だった。
「そ、そんなことはありません。そんな風に思い悩むヴァレリア殿は見た目だけじゃない、心も純粋で美しいではないですか!」
同じように思ったのか、思わず立ち上がったセオドアが、彼女の両手を握りしめる。
見つめ合い、真っ赤になったふたりは、「あっ」と今度は慌てて手を放しそっぽを向く。
その様子は、初々しい恋人同士のようで、エマは自分が邪魔者のような気がしてくる。
「す、すいません!」
「いいえ。あの、……嬉しいです。……その、お話を聞いてくださってありがとうございます」
(セオドア様のあの顔……。すっかりヴァレリア様に夢中じゃないの。気まずいなぁ。早く誰かお客さん来ないかしら)
エマはもじもじするふたりを横目で見つつ、いたたまれない思いで身を潜めていた。