王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
3.王太子殿下の妃候補
昼を過ぎてひと気が閑散とするころ、エマはいつもソワソワと落ち着かない。
まるで狙っているかのように、ひとりのときを狙ってギルがやって来るのだ。
「今日は何のお茶を飲ませてくれる?」
彼の嬉しそうな顔を見ているだけで、エマは浮き立つような高揚感と息が詰まるような感覚を同時に味わう。
「そうねぇ。なにか悩みはある? お腹の調子が悪いとか、胃が痛いとか、悪い夢を見るとか」
お茶用の薬草は、薬用の薬草とは別に仕分けされている。
エマはギルの反応を見つつ、一つ一つ中身をチェックしていた。
「よく眠れないことはあるかな。……それにしても、たくさんあるんだな。これはエマが作っているのか?」
「ハーブは父が作っているの。干したり、オイル漬けにしたり、加工をするのが私の仕事。ハーブティーだったらブレンドを考えたりとか」
「ブレンドもするのか。いろいろあるんだな。その薬草はなんていう名前なんだ」
「これはタイム。勇気の象徴とされていて、古代では枝を湯船に入れて入浴することもあったらしいわ。抗菌作用があって、粉にしてもいいし、はちみつ漬けにしたものもあるわよ」
「へえ、おもしろいな。じゃあ今日はそれがいい」
ひょい、と何気なく顔を近づけられてエマの心臓は早鐘を打ちはじめる。
「じ、じゃあカモミールティにタイムハニーを加えましょうか」
「エマのお茶を飲むと気分が晴れるからいい」
「……なにかあったの」
「うーん。まあ、いろいろと。……なかなか自分の思い通りに事が運ばなくてね」
「大丈夫?」