王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「これはうまいな! クッキーがこんなにうまいと思ったのは初めてだ」
「でしょう? これは母が作ったものなんだけど、厨房さえ使えれば私も作れるわ」
「そうか。食べてみたいな」
「ふふ。そうね。いつか作ってあげる」
一緒にお茶を飲みながら話をしていると、ここが職場だなんて気持ちはどこかに飛んで行ってしまう。
ギルが聞きたがるので、話はハーブの効能のことが多い。ギルはいつでも興味津々で、図鑑を出して見せると大喜びした。
その素直な反応も、エマにとっては嬉しくてたまらない。
「エマはどのハーブが好きなんだ?」
「レモンバームね。育てやすいし、効能も色々あって使いやすいから、昔から重宝してる」
「そういや、君に懐いていたあのマグパイも、バームって呼んでたな」
「私が名前を付けたの。気分が落ち込んでいてもいつも助けてくれる。私を前向きにしてくれる。そういうところがレモンバームそっくりだったから。女の子だったらメリッサってつけたかったんだけど。男の子だったから、バーム」
「なんでメリッサ?」
「別名なの。ミツバチって意味があるらしいわ。レモンバームの蜂蜜はかつて解毒剤として使われたこともあるのよ」
「君は物知りだな。面白い。もっと聞かせてくれ」
ギルの賛辞に、エマの心にスーッとまっすぐに入ってくる。
薬室のお客は、薬の効果にしか興味がない。エマが愛するハーブたちのことにまで想いを馳せてくれたのはギルだけだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、お茶はもうだいぶ前に空っぽになっている。