王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「あの、お薬いいかしら」
別のお客がやってきたので、エマは慌てて立ち上がり、ギルは持っていた帽子を目深にかぶって息をひそめた。
待っているのはどこかの貴族に使えている侍女だ。噂が噂を呼び、城内の中でもエマの客は増え続けていた。
「栄養剤はあるかしら。……あら、お客様だった?」
「大丈夫です。あちらのお客様は処方なので時間がかかりますので。……栄養剤ですね。一本でいいですか?」
「あるなら三本くらい貰おうかしら」
「はい。飲むときは量に気を付けてくださいね」
ちらり、と不審がるようにギルを見た後、侍女は薬を抱えて帰っていく。
エマが振り向いたと同時に、ギルは帽子をずらした。
その様子に、エマは思わず笑ってしまう。
「もしかして、ギル、騎士団の仕事をさぼっていたりする?」
「え?」
「だって、さりげなく顔を隠すんだもの。バレバレよ。……だめよ? ちゃんとお仕事しなきゃ」
「急に年上ぶるなよ」
「ふふ。だって。本当に年上なら、別にいいでしょう?」
すっかりお姉さん気分で、エマが言う。
ちょっと拗ねた顔のギル。格好いいのに可愛くて、見てるだけで胸が温まる。
城下町の店にいた時も、常連客はたくさんいた。だけど、こうしてエマとの会話を楽しんでくれる人はいなかった。
エマは彼といられる時間が楽しくて仕方なくて、時計を見るのをやめてしまった。
明り取りの小窓からバームが覗いているのも気づいているけれど、窓を開けるのもやめておいた。
ふたりきりでいられる時間を、大切にしたかったのだ。