王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
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王城内がせわしない。エマのもとには、朝から使用人たちが次々と訪れていた。
「喉が痛いんだが、今すぐ治せないかな」
「栄養剤を頂戴!」
「腰を痛めたんだがなんとかならないかな。今日は倒れるわけにはいかないんだ」
「はいはい、順番にお待ちください!」
前のふたりはすぐ終わるも、腰を痛めた従僕さんは手がかかる。
「ソファに横になっていただけます? とりあえず特製シップ貼ります。それと痛み止め出しますね」
腰だけとはいえ、男性の裸を見てしまうのは照れもある。薬草をすりつぶして作った薬を塗り、柔らかい布で覆って包帯を巻くあいだ、黙っているのに耐えかねて、「一体何をして痛めたんです?」と聞いてみた。
「あー、今日は舞踏会があるから。会場準備で大わらわなんだ。アンタ、エマちゃんって言うんだろ?」
「あ、はい」
「アンタの薬が城で買えるようになって助かってるってみんな言ってるぜ。たしかに、今薬を塗ってもらったばかりなのに痛みが軽くなっている気がするもんな。大したもんだ」
「ほ、本当ですか?」
その褒め言葉は純粋に嬉しい。
エマはゆるむ口元を抑えられないまま、従僕の治療を終える。
「おお、動ける。すごいな。仲間にも宣伝しておくよ」
「ありがとうございます!」
エマはまだ腰を守るようにそろそろと歩いていく従僕を見送り、ふうとため息をついた。
ようやくお客の波が去った感じだ。
「……また王子様の道楽か。付き合わされる方も大変ね。王子様の結婚なんて、身分で決めるものじゃないのかしら」