王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
貴族の間の婚姻は、政略結婚が主だと聞いている。
好きな人と結婚したいと思っているのなら同情はするが、候補者の中にはあのヴァレリアもいるのだから、贅沢なんじゃないかとも思ってしまう。
(そうだ、ヴァレリア様……)
あの後、なんとなくいい雰囲気を醸し出していたセオドアとヴァレリアだったが、ヴァレリアの侍女が探しにやって来て、連れ帰られてしまった。
セオドアは名残惜しそうに見送っていたが、すぐに気を取り直したようにエマにお礼を言うと、騎士団の詰め所へと戻っていったのだ。
(貴族の恋愛って難しいんだなぁ。ただ好き同士だから結婚するってわけにはいかないんだものね)
想いを馳せれば頭に浮かんでくるのはギルだ。
打ち消そうとしても消えない彼に、エマも切ない気分になってくる。
(ギルだって、騎士団に所属してるってことは下級貴族のご子息かなにかなのよね……。庶民の私には身分違い。ううん、その前に、魔女である私が普通の人と結婚できるわけがない)
エマの両親は魔女たちの隠れ里で一緒に育ったという。近い年頃の人間はあまりおらず当然のように結婚したと言っていた。
それでも、いるだけいいだろうと思う。
エマやジュリアには、魔法の秘密を共有してくれる人間はいない。
いつか魔女でもいいと言ってくれる人間が現れるだろうか。でも秘密がバレた時点でその人が言いふらしたりしたら、魔女として殺されてしまうかもしれないのだ。打ち明けるのにも、相当の勇気がいる。
そう思えば、告白なんてできるわけがない。
「いつか、私だけの王子様が迎えに来てくれるのかしら……」
物語でよく見かけるセリフだ。迎えに来てくれるのを待つなんて、なんて他力本願な、と思っていたものの、実際年頃になればそう願う気持ちも分かる。
「それがギルならいいのに。……なんてね」