王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「一体何だったの、父さん」
「エマ……。それがな。グリーンリーフから王城に、薬師をひとり派遣しないかというんだ。最近、栄養剤が売れているだろう。あれが王城の侍女たちにも大人気らしい。けれど王宮勤めの住み込みの人間が城下町まで下りて来るのは大変だからと、王城の一室で薬の販売をして欲しいという要望が上がっているんだそうだ。キンバリー伯爵はそのための支援を申し出てくれて、もし了承するなら、部屋のしつらえや必要なものはすぐに揃えてくれると言っている」
「それはすごいけど、……でも、大丈夫なの?」
エマの問いかけに、ジョンとベティも浮かない顔で目を見合わせた。
一家には、王城の人間にばれてはならない秘密があるのだ。
だから細々と城下町の中でも端のほうに店を構え、日々の暮らしに困らない程度の稼ぎで満足している。
ジョンは青ざめたまま頭を抱えた。
「そうなんだよ。もし城で何かをやらかして俺たちのことがばれたら、……命だって危ないんじゃないか?」
「でも断れないわよ。キンバリー伯爵のあれは、申し出というよりは脅しだったわ。他の貴族に先んじて国王に恩を売りたいって感じだったもの」
腕を組んでベティが言う。
「でも、バレるって言っても薬を作っているだけでしょ? ただ単に効き目がいいってだけの薬だよ? ばれないんじゃない?」
のんきに希望的観測を述べるのはジュリアだ。
エマは全員の顔を見渡した。
新しい仕事の申し出に対して、期待よりは不安のほうが多いのが見てとれる。みんなの気持ちを代弁するように、エマはつぶやいた。