王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「……くそっ」


だとしたら、エマをどこかの貴族の養子に入れてはどうだろう。
自分の家から王太子妃を出せるとすれば、受け入れる家はないこともない。

いい考えにも思えたが、それは、エマも自分を想ってくれているという前提での話だ。
王子だと告げた時点で嫌われてしまうかもしれない。
命令でつなぎとめることもできるが、そうすればエマはきっと一生、笑いかけてくれないだろう。


「……八方ふさがりとはこのことだ」


頭を抱えつつも、時間になりギルバートは会場へと向かった。

既に招待客は集まっており、ギルバートが中に入ると客のすべての視線が彼のほうへと向けられる。

演奏が始まり、令嬢たちは踊りの誘いが来ないかとギルバートを見つめる。この期待に満ちた目も、ギルバートには重い。
彼がそっけなく通り過ぎると、令嬢はあからさまに落ち込んで見せる。
そこで、すかさずギルバートのすぐ下の弟・ブレイデンが踊りの誘いに入ってくれるのが、唯一の救いにも思えた。

国王は今日もやる気のないギルバートに呆れ、咳払いをしながら彼に近づいた。


「ギルバートよ。今日こそは気に入った令嬢を見つけるのだ。少しはブレイデンを見習え」


ブレイデンは女性に愛想がいい。その分、問題もすぐ起こすが、国王としてはまったく女性に興味を示さないギルバートよりはマシという気になっていた。


「父上、もう舞踏会はやめましょう。俺が気に入る娘はここにはいません」


目をそらし、ため息までつくギルバートに、ついに国王の堪忍袋の緒が切れた。

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