王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
ギルバートはため息をつき、その場を去ろうとするが、あと一歩のところでシャーリーンに捕まってしまう。
「ギルバート様、ぜひテラスでお話したいわ」
腕に押し付けられるのは、シャーリーンの豊かな胸だ。胸元と肩の開いたワインレッドのドレスはなかなかに官能的で、たしかに男の欲は刺激される。だがギルバートはそれより先に強引に腕を掴まれたことが不快だった。
「シャーリーン殿、ふたりで会う機会はまた別に取りましょう。今日はどうぞ、皆と楽しんでください」
「私は王子様と話したいのです。もっと私のことを知っていただかないと時間が勿体ないですもの」
「婚約者候補だからですか? でしたらそれはあなただけじゃない、ヴァレリア殿も一緒に話しましょう」
ギルバートは助けを求めるように純白の令嬢を探す。彼女は彼女で、所在なげに壁の近くに佇んでいた。
今までならば、ギルバートが誘わなくとも参加者の男が彼女を放っておかなかったが、婚約者候補として名乗られたことで、彼女を誘うことに遠慮する気配が広がっている。
「いいじゃありませんか、あんないるかいないか分からない方、放っておけば」
「シャーリーン殿」
行き過ぎた発言を咎めるように軽くにらむと、さすがに気がひけたのかシャーリーンは彼を掴む腕を放した。
その隙に、ギルバートは彼女の腕から逃げ出す。
「すまない。ちょっと腹の調子が悪いようだ。話はまた今度」
適当な言い訳を耳打ちし、部屋から抜け出そうとする。
「あ、待ってくださいませ」
手を伸ばすシャーリーンの視界から外れるように、ギルバートは人の込み入った中を素早く移動し入り口辺りまで逃げた。