王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「失礼ですけど……」
「ああ。私はシャーリーン=キンバリー。知ってるでしょう?」
「キンバリー伯爵様の?」
「ええそう。あなたにここの仕事を支援してあげたキンバリー伯爵よ。分かってるわね?」
まるで、エマが頼んで仕事を貰ったような言い方だ。
いちいち上からの物言いはエマを苛立たせたが、相手は貴族。反発しても無駄だ。
エマは自分自身を押さえつけるように深呼吸すると、気を取り直して営業スマイルを浮かべた。
「私はエマ=バーネットです。それで、今日はどのようなご用件なのでしょう」
「決まってるじゃない。あなたは薬師なんでしょう? 薬を作ってほしいの」
「どこか具合が悪いんですか?」
はきはきと話すシャーリーンはぱっと見、元気いっぱいだ。とても薬が必要な病人にも怪我人にも見えない。
「ちょっと耳を貸しなさい。これは内密の話なの」
「はあ」
近付くと、シャーリーンからは花が虫を誘うときのような甘い香りがした。
「欲しいのはね、惚れ薬」
「ほ?」
「媚薬でもいいんだけど。どっちが簡単に作れる?」
媚薬の言葉にエマの顔が真っ赤になる。
「び、び、び、媚薬なんて無理です。そんな破廉恥なっ」
「馬鹿ね。声が大きいわ。だったら惚れ薬。作れるでしょ? 薬屋だっていうなら」
「待ってください。無理ですよ。そんな……人の心は薬でなんか変えられるものじゃないです」
「まあ、頼りないわね。お金ならいくらでも出すわよ。闇市場では媚薬や興奮剤が取引されてるってお父様から聞いたことがあるわ。薬屋なら作れるはずよ」