王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「だ、ダメです。そういう薬を作るのは禁止されていますし」
本当は、媚薬も惚れ薬も作れる。けれど、魔女内の決まりで禁止されているのだ。
人の心を左右するような魔法は使ってはいけないと、大魔女クラリスはバーネット一家が三年前にノーベリー領を離れるときに口を酸っぱくして言っていた。
“人と共存できる魔女になりなさい。
そのためには、人の心を軽んじてはいけない。
どんな魔法も、人のためになるのならば使ってもいいけれど、心を変えるようなものは使ってはいけません”
その言葉はエマの心の中に、しっかりと息づいている。
闇市で媚薬が出回っているというのは初耳だが、おそらく人間が作ったものだから一夜しか効かないような媚薬なのだろう。それでも、出来るなら取り締まったほうがいいだろう、と内心、エマは考える。
きっぱりと断ったエマに、シャーリーンはむっとしたまま、不貞腐れたように頬を膨らます。
「王太子様の妃候補が決まったのよ」
「え? そうなんですか?」
「私か、ヴァレリア侯爵令嬢。ふたりに絞られたの。まあ、胸も私のほうが大きいし、機知に富んでいるのも私のほうだと思っているけど、家柄は侯爵家のほうが上だし、男の人ってああいうたおやかな女が好きじゃない。だから何とかしたいの。私を選んでもらえるように」
さりげなく自分自慢を挟んでくるあたり、かなり高慢な令嬢である。
エマはひそかに、王妃にならヴァレリアのほうが向いているだろうと思ったけれど、顔に出さないように努めた。
この令嬢は機嫌を損ねるとかなり面倒くさいことになる気がしたのだ。