王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「ねぇ。あなたはお父様のお陰でここで仕事ができるんでしょう? だったら私の頼みは聞かなきゃダメでしょ? そうよね? とにかく、惚れ薬が作れないって言うなら、王太子様の心を私にひきつけるためのなにか。頼んだわよ。来週取りに来るから!」
「え、ちょ、待ってください、シャーリーンさま……」
しかしシャーリーンはエマの返事など聞いていない。侍女を引き連れ、さっさと部屋を出て行ってしまった。
呆気にとられたまま、エマが彼女たちが消えていった扉を見つめていると、いつの間にか、小窓からバームが顔をだしていた。
「……どうするんだよ、エマ」
「どうするって。……どうしようもないけど」
「すごい勢いのお嬢さんだったな。これ、出来なかったらエマがなにかされるんじゃないか?」
「ええー! 嫌よ! バーム助けて」
「助けてって言ってもな。惚れ薬なら作れるんだろ? こっそり作っちゃえば?」
「でもクラリス様にばれたら怒られるわ」
「ばれるわけないじゃん。ここからノーベリー領までどれだけ離れてると思ってるんだよ。それでエマの王城生活がうまくいくんならいいんじゃない?」
バームは悪びれもせず言うが、決まりは決まりだ。
エマは頭を抱える。
惚れ薬を作るという禁忌に触れることもそうだが、あのシャーリーンを王太子妃にする手伝いをするのかと思うと気がひける。
たった数分話しただけなのに、どっと疲れてしまうほどのマイペース。そんな人がいずれは王妃になるかと思うと心配だ。