王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



その日、毎日のように来ていたギルが来なかった。


「いつもだったら、今頃来るのに」


ギルがくる時間は大体一定だ。昼を少し過ぎた、閑散とするタイミング。
今日はローズヒップのお茶を出そうと、その時間に合わせて用意していたのに。

金属製のポットに用意していたお湯は冷めてしまったので、一度外に捨てに出る。外で訓練する騎士団の声に、エマは目を向けた。

現在騎士団員の中で遠征に出ているものはいない。事件が起きれば呼び出されることもあるが、基本城で訓練しているはずだ。
だけど、エマはいまだ、訓練中のギルを見つけることはできなかった。


(あ……セオドア様だ)


ちょうど兜を脱いで、「一度休憩するぞー」と声を張り上げたところだ。

じっと見つめていたが、その一団の中にも、ギルはいない。チラチラとエマに視線を向けたものはいたが、みんな詰め所のほうへと走っていってしまった。


「何してんだ、エマ」


バームの声が聞こえたので見上げると、すぐ近くの木の枝に止まっていた。


「なんでもない。ただ、今日はギル来ないなぁって」

「あいつか。飽きたんじゃないの? あいつ、真面目じゃなさそうだもん。僕、よくこのあたりを飛ぶけど、あいつの姿を見たことがないぜ? 本当に騎士団員なら、もっと訓練で表に出るだろう」

「記録の担当かも知れないじゃない」

「記録の担当だって全く外に出ないってことはないだろ。とにかく、簡単に気を許すなよ、エマ。男なんて女ならだれでもいいんだから。エマが物珍しくて寄って来ていただけだろ、きっと」

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