王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
いつもだったら呆れながらも受け入れていたバームの言動も、受け入れられない。
イライラして、つい当たるように叫んでしまう。
「うるさいな。バームに何が分かるのよ」
「なんでも分かるよ。エマが遊ばれるんじゃ可哀想だから注意しろって言ってるんだ」
「遊ばれたりなんかしないわよ! バームの馬鹿っ」
エマはイライラしながら部屋に戻る。
バームが窓から覗いているが、今は中に入れたくなくて無視した。
お客はそれからも数人やって来たが、結局この日、ギルは姿を見せなかった。
(どうして来てくれないの? ハーブの話に飽きちゃった? それとも具合が悪いとか? いや、ここは薬室だもん、それならむしろすぐ来るはずだわ)
会えないだけでこんなに胸が締め付けられる。
寂しさと同時に、何かまずいことを嫌われてしまったんじゃないかという焦燥にかられ、エマはいてもたってもいられなくなっていた。
扉の看板をcloseにかけなおすために廊下に出て、そこからしばらく辺りを伺う。
けれど、通るのは使用人だけでギルの姿は全く見えない。
(……会いたいのに、私から会いに行く資格がない。それどころか、普段ギルがどこにいるのかさえ、私は知らないんだわ)
切ない思いが限界に達し、エマは自分の中でなにかがはじけたような気がした。