王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「試しにつくってみるだけ。……そう。本当に飲ませるわけじゃない」
言い訳を口にしながら、レシピを頼りに惚れ薬を作る。
なにかをしていないと、正気でいられないような気分だった。
ギルが恋人だったら、愛の言葉をひと言でももらっていたなら、一日くらい顔を見なくてもこんな不安になることはない。
自分が気持ちを伝えていないことは棚に上げ、エマは薬という楽な手段に手を伸ばそうとしていた。
材料をふんだんに使う割に、じっくり煮詰めなきゃいけないためか、惚れ薬は小瓶に一本分しかできなかった。
「これを一滴、お茶に入れれば、彼は私に恋をする……」
エマは想像した。
お茶を飲んだ途端、はじかれたように自分を見つめるであろうギルを。頬を染め、熱っぽい瞳を向け、愛の言葉を囁くギル。
『可愛いエマ。もう離さないよ』
そんな言葉を贈られたら、天にも昇る心地になれるだろう。
想像にときめくと同時に、むなしさも胸に去来する。
もしそう言ってくれたとしても、それはギルの意思ではないのだ。薬を使って言わせただけのこと。
エマは正気に戻るのも早かった。
薬を使っても、それが永遠に効くわけじゃないということは、薬屋だからこそ身に染みて分かっていることだ。
「……嘘の思い出なんて、心の糧になんかなるはずないわ」
試す前に気付いてしまった。
エマが欲しいのは、ギルの心からの言葉だ。惚れ薬で心を操られたギルの言葉ではない。
「馬鹿ね、こんなもの作って。……本当に馬鹿だわ」
エマは棚に出来上がった惚れ薬を置き、使った道具を片付ける。
そしてベッドにもぐりこみ、情けなさと恥ずかしさで、ほんの少しの間涙をこぼした。