王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
4.惚れ薬の行方
翌日、思いつめた様子でエマのもとにやって来たのは、マクレガー侯爵令嬢・ヴァレリアだった。
「ヴァレリア様?」
「エマさん。……相談に乗っていただけません?」
元々肌の白いヴァレリアだが、今は蒼白になっている。泣き出しそうな顔というよりは、実際ひと晩泣き明かしたような様子だ。瞼が腫れていて、いつもの美しさは半減している。
エマは彼女を奥のソファーに導くと、ボールに水を張りそこにミントを入れてしばらく置いてから、ハンカチを浸して固く絞る。
「このハンカチで目元を押さえてみてください。腫れが引いていくはずです」
「ありがとう。ひどい顔でしょう。私もびっくりしちゃった」
「……何かあったんですか?」
出来るだけ優しい声で尋ねると、ヴァレリアは再び目に涙を浮かべた。
「私、王太子様の婚約者候補になってしまったの」
それは昨日、シャーリーンから聞かされたので知っている。
マクレガー侯爵家としてはめでたい話のはずなので、エマはどう反応していいか迷う。
「それは、……おめでとうございます?」
「やっぱりあなたもそう言うのね。みんなと一緒!」
「お嫌なんですか」
「嫌に決まっているわ。だって王太子様は私を好きじゃないんだもの。ただのお飾りの妃になるのが嬉しい女がどこにいるの? それに、……私、ようやく好きな人ができたのに」
それにはピンときた。
先日、まさにここで笑えるくらい照れながら彼女をほめたたえていたセオドアが脳裏に浮かぶ。