王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……セオドア様です……よね」
「分かってくれるの? やっぱりあなたは他の人とは違うのね。そうなの。私、この間から、彼のことばかり考えてしまうの」
「はあ」
「初めての恋です。なのに、……今の立場では伝えることさえできません」
ヴァレリアのため息からは薔薇でも生まれてきそうだ。
男の人なら誰でもこんな人を好きになるんじゃないだろうか。王太子様が彼女を好きじゃないというのはいまいち信じられない。
だが、それは置いておいても、ふたりならお似合いだ、とも思う。
武骨だが世話好きで気の優しいセオドアと、気が弱くおどおどとしているが心の清らかなお嬢様。
エマは素朴な疑問をぶつけてみる。
「……王太子様のほうを辞退できないんですか?」
「王太子様のほうから断られるならともかく、私のほうからは無理だわ。私が嫌だと言っても、お父様が納得なさらない。それにそんな名誉を辞退するような居丈高な娘を他に嫁にもらってくださる方もおられないでしょう。セオドア様だって、こんな私のことなんて」
好きだと思いますけど。
……とはさすがに言えない。恋の告白は自分でするものだ。赤の他人が口を出していい話じゃない。
「ではまずセオドア様にお気持ちを伝えてみては? セオドア様も貴族様でしょう? 障害はないんじゃないですか? 相思相愛だというならば、お父上だって無下にはなさらないんじゃないですか?」
エマは本音を言ったが、ヴァレリアは少し呆れたような顔をして彼女を見ていた。