王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「エマはあまり貴族のことには詳しくないのね? ニューマン男爵家は下級貴族で、騎士の家系なの。侯爵家の娘が、男爵家に嫁ぐことはあまりないわ。逆ならば……ないこともないけれど」
エマにとっては貴族という時点で雲の上の人だ。
さらにその上下関係をくどかれてもさっぱり分からない。
「……ごめんなさい、私じゃお役に立てそうもない……」
前提が分からないのでは、どうにもならない。お役に立てそうもないわ、と諦めかけた時、扉がノックされた。
「はい?」
「やあ、エマ。昨日は来れなくて……」
入って来たのはギルだ。今までゆっくりだった全身の血の流れが急に早くなったような感覚とともにエマの頬が染まる。
(ギル……。よかった。また来てくれた)
ギルのほうはいつもと変わらぬ調子でエマに笑いかけたが、正面奥のソファに座る人物を見て、表情を失くして言葉を止めた。
「ヴァレリア……」
ヴァレリアのほうも驚いた顔をして立ち上がる。
(知り合い……? そういえば、騎士団員なんだから、ギルもきっと貴族なのよね)
だとすれば、少なくとも自分よりは相談相手として頼りになるはずだ。
エマはギルの腕をとり、耳打ちする。