王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「返事をするのはいつなの? とりあえずクラリス様に相談するしかないんじゃない?」
こんな時、一家をまとめ上げるのはしっかり者のエマの役目だ。
彼女の提案にジョンもベティも言葉を止め、顔を上げる。
「私のバームなら、二日で行って帰ってこれるわ」
「それもそうね。いいことを言うわね、エマ。クラリス様にお伺いをたてましょう」
母親が納得したところで、エマは窓に向かい、ぴぃっと口笛を吹いた。
すると、黒色の体に白と青の縦じまの羽をもつ鳥が、一羽窓際まで飛んできた。
マグパイと名で親しまれているカラスの一種だ。この国ではあらゆるところで見られる。知能が高く、一部では悪魔の鳥とも言われている。
マグパイのバームは、エマの使い魔だ。契約により意思の疎通が可能になり、手足となって働いてくれるかけがえのない相棒。
「どうした? エマ」
エマの頭には、鳥の言葉が人間の言葉として頭に響いてくる。しかし、他の人間は例え魔女であっても、鳥の鳴き声にしか聞こえない。使い魔として契約した動物とだけ、このように意思の疎通が図れるのだ。
「バーム。お願いがあるの。クラリス様に伝言をお願いしたいのよ」
「お安い御用だよ」
「バーム。クラリス様にこう尋ねて。【キンバリー伯爵より、王城内に薬屋を開くように進言されました。これは断れそうにありません。素直に従うべきか、店ごと夜逃げするかどちらがいいか教えてください】とね」
エマの言葉が形になったかのように、バームの体の一部がきらりときらめいた。
「わかった。夜逃げになったら物騒だね」
「できれば避けたいわ。でも、王城に行くのも心配なのよ」
「まあいいや。聞いてくるよ。じゃあね、エマ、明日には帰るよ」
他の人間にはキュルキュルとしか聞こえない声で鳴くと、バームは空へと羽ばたいた。
スカイブルーの空に、彼の羽の色は美しく映える。
エマは彼の姿が点になって見えなくなるまで、ずっと窓から眺めていた。