王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
シャーリーンに薬ができないと言えば、ここを追い出されるかもしれないけれど、それも仕方ない。
(どちらにせよ、ギルとは身分違いなんだから、この気持ちが抑えていられるうちに離れたほうがいいのかもしれない)
エマが悲しい決意を心の中で固めたときだ。
ふと、手に温かいものが触れた。見るとギルがエマの指先へと手を伸ばしていた。
「ギル?」
「エマ。……俺は」
ぎゅ、と握られる手。どくんと響いた心臓の音は、どんどん大きくなっていく。
彼の瞳に吸い込まれてしまったように、周りの音が聞こえなくなっていく。
エマの目には、今ギルしか映っていなかった。
「ギル……」
「ずっと君に言わなきゃいけないと思っていたことがあるんだ。まず最初に、これだけは言っておく。俺は君が好きなんだ」
一瞬、エマは驚きのあまり呼吸ができなくなった。喉が詰まり、ひと言発するだけのことにすごく時間がかかる。
「……ギ」
ギルは照れたように目をそらしながらも、エマの手を握り続ける。
「君は、俺のことを……」
そのとき、グリーンリーフの入口の扉が大きく開き、シャーリーンが現れ、エマにとっては信じられない言葉を叫んだ。
「王太子様っ」
「え?」
「げっ、シャーリーン嬢」
シャーリーンはギルがエマの手を握っているのをしっかり確認し、苦虫をかみつぶしたような顔をしてふたりの間に割って入った。
「何をしていらっしゃるんです。こんな庶民の娘を相手に。まあ、こんな騎士団の恰好なんかなさって」
「……え?」
エマは瞬きをしてギルを見つめる。
先ほどまでの甘い雰囲気は一気に吹き飛んでしまっていた。