王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

シャーリーンが入ってきて初めて、エマは“王太子様”と呼ばれた男がギルであると認識したのだ。

(……嘘。ギルが王太子様?)


「え? シャーリーン殿」


我に返ったセオドアとヴァレリアも、乱入してきたシャーリーンに注目した。
皆の視線を一身に浴び、シャーリーンは勝ち誇ったようにギルの腕に自らの腕を絡ませ、ヴァレリアに挑むように告げた。


「二人で歩いているからついてきてみれば。まさか、ヴァレリア様に他にお相手がいるとは知りませんでしたわ。王太子様を隠れ蓑にするなんて、さすが侯爵家の令嬢ですこと。……これは事実上の離脱宣言と受け取ってよろしいのですよね? では、王太子様の妃候補は私に決まりですわね」

「シャーリーン殿、黙ってくれ」

「まあ、どうして?」

「黙れ!」


ギルの鋭い声に、その場にいた全員が体をびくつかせた。
ギルに肩を掴まれ、エマは思い切りびくついた。見上げると、ギルは悲しそうな顔をエマに向けていた。


「エマ。……誤解しないで欲しい。後で説明に来るから。……シャーリーン殿、話がある。こちらへ」

「はい! どこまでもついていきますわ。ギルバート様」


嬉々として出ていくシャーリーンの後ろ姿に、エマは絶望する。

たしかに、シャーリーンは彼のことを“ギルバート”と呼んだのだ。

信じたくはなかった。
だけど、そう考えれば全ての疑問に納得がいく。

王太子の名前は、ギルバート=ローガン。二十歳を目前にして、現在妃選びに奔走している。
王太子ならば騎士服を手に入れることもきっとできるだろう。もちろん、セオドアにもヴァレリアにも、命令できる立場だ。
ギルは、ギルバート王子殿下なのだ。

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