王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
5.身分違いの恋だから
シャーリーンがけたたましく去って行って、エマは毒気が抜けたように呆けたまま、店の札をcloseにかけなおした。
まだ時間は早かったが、とても営業などできそうにない。
その後、小窓を開けると、ずっとせわしなく窓をつついていたバームがようやくか、というようにため息を吐きながら入ってくる。
「エマ……大丈夫か?」
「うん。聞こえてた?」
バームは肩にとまり、もちろん、というようにひと声鳴く。そして、エマの頬に擦り付けるように羽を寄せた。
「あいつ、王子だって?」
「うん。……貴族様かもしれないとは思ってたけど、まさかの大物過ぎてびっくりし……」
エマは敢えて明るい声で答えようとしたが失敗した。すぐに涙が浮かび上がってくる。
「泣くなよ。エマ」
「おかしいな。止まらない。彼が何者でも結果は同じなのにね。私みたいな庶民が、どうこうなれる相手じゃないってのは」
「悲しいのはそこじゃないんだろ。エマは騙されていたことが悲しいんだ」
長年一緒にいるからなのか、バームは実に的確にエマの気持ちを言い当てる。
「……うん、……う、えっ」
「よしよし」
バームの羽がエマの頬を撫でていく。それに甘えるようにエマがひとしきり涙にぬれていると、やがて扉を叩く音が聞こえてきた。