王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「エマ、俺だ。開けてくれ」
ギルの声だ。エマは慌てて扉に駆け寄り、鍵を閉めて自らの体で扉を押さえた。
「今日はもう終わりです。帰ってください」
「嘘をついていたのは悪かった。話を聞いてくれ」
「王太子様に不敬を働いていたことは謝ります」
「エマ、そうじゃない。頼むから。入れてくれ!」
ギルの声は必死だ。だけど、エマのささくれ立った気持ちは、もう元には戻らない。
どういうつもりで好きだと言ってくれたのかは分からないが、エマは信じるわけにはいかなかった。王太子は今、妃を選ばなければならないのだ。
「……王族に薬は処方するなと、医師様からきつく言われています。今までは知らなかったこととはいえ、申し訳ありませんでした。もう二度と来ないでください」
「エマ」
「シャーリーン様がお妃様になるんでしょう? 私なんかのところに来ないでください!」
「俺は君がいいんだ!」
ガタガタと、扉が激しく揺らされる。同じように、エマの心も揺らされていた。
「聞いてくれ、エマ。俺はずっと妃となる女性を探せと言われていた。だから舞踏会でも貴族の令嬢と話をした。でも誰も、俺の心を動かしたりはしなかった。……君だけだよ。俺を心から楽しませてくれたのは」
エマの瞳に再び涙が盛り上がる。
エマだってそうだ。一緒にいて、こんなにも楽しいと思う男性は、ギルが初めてだったのだ。