20代最後の夜は、あなたと
「お先に失礼します」


「お疲れさまでーす」


休み明けだからか、みんなも割と退社が早いみたいで、あちこちからそんな声が聞こえた。


駅まで歩いていたら、突然後ろから、


「宮本、ちょっといい?」


と呼び止められた。


振り向くと、いつのまにか伊勢くんが立っていた。


「お疲れさま、どうしたの?」


「えっと、この前借りた傘を返したいんだけど」


「あーあれ、返さなくていいよ、ただのビニール傘だし」


「でも、悪いからさ」


「っていうか、いま傘持ってないじゃん」


「・・・わかってねーな、傘を口実にして誘ってんだよ」


「はい?」


「いいから、ちょっとつきあえ」


伊勢くんは、普段の態度から想像もできない強引さで、私の手を握ると歩き出した。


「え、ち、ちょっと?」


私も驚きつつも、伊勢くんはよっぽど大事な用事があるんだと思ってついていった。


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