20代最後の夜は、あなたと
伊勢くんは、黙ったまま私のことを見ていた。


「え、私の顔になんかついてる?」


「ここ」


伊勢くんは手を伸ばすと、指先で私の口元にふれた。


「ソースついてる」


「ありがと」


なんでだろう。


なんでかわかんないけど、ドキドキする。


それからは、仕事の話や部署内の話、好きな食事の話で盛り上がった。


「おなかいっぱい、ごちそうさま。


私が食器洗うよ」


「いいよ、俺やるから」


立ち上がりかけた私の両肩に軽く手をおくと、手早くお皿を片づけ始めた。


伊勢くんの背中を見てたら、彼氏でもない男子の部屋で、しかも私には一応できたてホヤホヤの彼がいるのに、ふたりっきりで何やってんだろう?と思った。


後片づけが終わったのを見計らって、


「じゃあ、傘もらって、そろそろ帰るね」


バッグに手を伸ばした。


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