20代最後の夜は、あなたと
私は黙ったまま、うつむくしかなかった。


「今日休み明けのおまえ見たら、なんか感じが変わったし、見たことないスカートはいてるし、課長につきあってくれって言われたな、と思った。


で、今さらだけど、もしかしたら間に合うかもしんねーから、俺の気持ちを一方的に伝えた。


困らせてごめんな、でも俺、あきらめないから」


私の髪をなでて、一瞬抱きしめられた。


「今すぐ奪いたいけど、返事もらうまで我慢するから。


ずっと、待ってるから」


抱きしめた腕をほどきながらそう言った伊勢くんの顔は、とてもせつなくて、胸が苦しくなった。


「家まで送るよ」


伊勢くんは玄関に向かって、私に借りた傘をつかんだ。


その背中に向かって、


「すごくビックリした・・・でも、ありがとう」


そう声をかけるのが、精一杯だった。


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