20代最後の夜は、あなたと
「俺を信じろ」


長いキスのあと、課長はそう宣言すると、資料室を出ていった。


私は力が抜けてしまい、へなへなとその場へ座りこんでしまった。


課長、ズルいよ。


こんなんじゃ、忘れることなんてできないじゃん。


社内恋愛なんて、するんじゃなかった。


涙を手でぬぐい、よろよろ立ち上がり、残りの資料を集めて、台車で運び出した。


課長のデスク脇まで台車ごと運び、


「お待たせして申し訳ありませんでした」


課長に声をかけた。


「サンキュー、助かった」


いつもとまったく変わらない口調。


さっき、私に無理矢理キスした人が言うセリフとは思えないんですけど。


デスクに座って、パソコンのメールをチェックして、帰り仕度を始めたら、なんか視線を感じた。


私の正面に座ってる伊勢くんが、心配そうに私を見ていた。


「伊勢くん、なんかあった?」


「メーカーから電話があった」


そう言いながら、メモを渡してくれた。


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