20代最後の夜は、あなたと
課長の胸の中は、いつだってあったかくて、まるで毛布に包まれたみたいに気持ち良かった。


ずっとこのままでいたい、って思わせてくれる。


「紗和」


やめて。


耳元でささやかれると、ゾクゾクする。


「課長、離してください」


「イヤだ」


「お願いします」


「紗和が伊勢とつきあうのかと思うと、イヤなんだよ」


「課長にはもう、関係ないことです。


それに、課長は他の支店に勤務されてた時から、たくさんの女性とつきあってたそうじゃないですか。


私は、そういう男性が苦手なので」


課長は黙って、腕をほどいた。


「残念だな。


他人の噂話は信じて、俺の話は信じられないってことかよ」


「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」


「どんな言い方したって、同じだろ」


課長は、冷たい目で私を見下ろしていた。


「短い間でしたが、ありがとうございました」


ドアに向かって歩き出しても、課長は追ってこなかった。


私も負けずに、一度も立ち止まらず、振り返らないまま廊下に出て、後ろ手でドアを閉めた。


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