20代最後の夜は、あなたと
「ボンヤリ?」


「霧島課長は宮本のことチラチラ見てるし、宮本も課長の背中を目で追ってるし」


「そんなこと、ない」


その時は、心からそう思っていた。


「じゃあ、これからは俺のことだけ見ててくれるんだよな?」


伊勢くんは、私だけまっすぐ見てくれる。


伊勢くんは、私にだけ優しくしてくれる。


もう、霧島課長のことは、忘れよう。


ただの、上司と部下に戻ろう。


「うん」


「俺たち、つきあってるってことだよな?」


「うん」


伊勢くんは、少しうつむき加減で照れ笑いしたかと思うと、私の頬を両手でそっと包みこんだ。


「伊勢くん?」


「おまえ、その顔、めっちゃかわいい」


「へ?」


伊勢くんは、大きくてあったかい両手で私の頬を包んだまま、ゆっくり唇を重ねた。


「大切にする」


何度か重なったキスのあと、伊勢くんは私に言ってくれた。


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