20代最後の夜は、あなたと
その後も、伊勢くんとは順調なつきあいが続いた。


月曜から金曜まではほぼ一緒に仕事をして、金曜から土曜日は伊勢くんちか私のうちに泊まった。


11月も下旬になると、なんとなく年末の慌ただしさを嫌でも感じる。


新年早々、新商品の発売予定を控えているので、その準備でどこも忙しい。


霧島課長と伊勢くんは毎日のように残業してて、私もたまに手伝ったりしていた。


ある日のお昼休み、ランチから戻ったら、


「宮本センパーイ、ちょっといいですかぁ?」


川島奈々(かわしまなな)が、甘ったるい声で話しかけてきた。


川島さんは同じ営業部だけど、彼女はデザイナー補助だから、私とはあまり接点はなかった。


社員旅行の幹事を伊勢くんと一緒にやってて、伊勢くんに告白してフラれたって子だ。


「いいよ、なにかな?」


何を言われるかは、なんとなく想像できたけど。


「宮本センパイってー、伊勢さんとつきあってるって、本当ですかぁ?」


「どうしてそんなこと聞くの?」


「私見たんですよねー、伊勢さんと宮本センパイが手をつないで歩いてるの」


私は肯定も否定もせず、黙っていた。


その時突然、川島さんは私を平手打ちした。


バッチーン!って、異様な音が会社のフロアに響いた。


「陰で私のこと笑ってんでしょ!


なんとか言いなさいよ!」


< 143 / 197 >

この作品をシェア

pagetop