20代最後の夜は、あなたと
その日の午後は、あまり仕事が進まなかった。


親にも叩かれたことないのに、まさか年下女子から平手打ちをくらうとは。


「宮本、ちょっといいか?」


霧島課長から声をかけられたのは、その日の夕方だった。


課長に続いて、会議室に入った。


「だいたいのことは、一部始終を見ていた社員から聞いた」


「そうですか」


「おまえが悪くないことはわかってる。


でも、川島からしたらおもしろくないんだろ。


少し有休消化したらどうだ?」


「お気遣いありがとうございます。


私は平気ですので、休みません」


川島さんに負けたくなかった。


「心配なんだよ」


そう言う課長の顔は、真剣だった。


「仕事に戻ります」


立ち上がろうとテーブルについた私の手に、課長は自分の右手を重ねた。


あったかくて、大きい手。


私はこの手に、何度も抱かれたんだ。


意識したら、胸が苦しくなった。


「失礼します」


課長の手を離し、会議室を出た。


背中に感じる、課長の視線が痛かった。


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