20代最後の夜は、あなたと
退社時間近くになって、私から伊勢くんに、


「何かできることある?」


って聞いたら、伊勢くんはパソコン画面から目を離し、


「それは俺のセリフだよ」


ちょっと怒った顔してつぶやいた。


「伊勢くん、何もないなら帰るよ」


「あるって、これ頼むよ」


「わかった」


今は無心で、仕事がしたかった。


人間関係でもめてて、仕事もできないんじゃ話にならないし。


「おい、もう19時になるぞ、そろそろ切り上げろ」


霧島課長の声で、伊勢くんと私は時計を見た。


「お先に失礼します」


「お疲れさまでした」


「おう、お疲れ」


流れで、伊勢くんと二人で退社することになった。


会社を出ると、冬になりかけの風が顔をなでた。


「俺んち来いよ、話あるから」


「うん」


会社を出てから伊勢くんちの最寄り駅に着くまでは、ただの同期のフリしてたけど。


最寄り駅を出たとたん、伊勢くんは私の右手を優しく握った。


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