20代最後の夜は、あなたと
伊勢くんに続いて、真っ暗な部屋に入った。


「おじゃまします」


ドアが閉まると同時に、伊勢くんは私を抱きしめた。


「痛かっただろ?」


私の頬をそっとなでた。


「平気だよ」


「俺の前では無理すんなよ」


「無理なんかしてな・・・」


優しいキスで、唇がふさがれた。


「もっと愚痴ったり、本音言ったり、俺に頼れよ」


「うん、ありがと」


頭をポンポンなでられた。


「じゃ、夕飯作るか」


一緒にハヤシライスを作って、食べた。


楽しかったのに、なぜか霧島課長の悲しそうな顔がチラついた。


「明日会社だし、今日は帰るね」


「なんだよー、泊まってけばいいのに」


「だって、同じ洋服で出社したくないし」


「紗和・・・俺と一緒に暮らそう。


もうちょっと広い部屋探してさ、来年3月ちょうど更新だし」


嬉しかった。


けど、即答できなくて、どう言ったらいいのかわからなかった。


「ありがとう、考えてみる」


「あんま嬉しくなさそうだな」


「そんなことないよ、ビックリしただけ」


「ならいいけど」


伊勢くんに抱かれて、すべてに包まれて、やっと落ち着いた。


明日からも、頑張れそうな気がした。


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