20代最後の夜は、あなたと
それからのことは、よく覚えていない。


あとから聞いたら、私は会議室を飛び出し、


「体調不良のため、帰ります!」


と一方的に霧島課長に告げ、とても具合が悪そうに思えないほど猛スピードで走り去ったらしい。


気づくと、真っ暗な自分の部屋で座りこんでいた。


ピンポーン、とチャイムの音が響き、暗い部屋をインターホンの画面が照らした。


画面をチラッと見たら、伊勢くんだった。


わかってる。


伊勢くんは、ちっとも悪くない。


だけど、私が伊勢くんとつきあわなければ、すべてが丸くおさまる。


居留守を決めこみ、ジッと動かずに伊勢くんが立ち去るのを待った。


金曜日で良かった。


奈緒に電話して全部話したら、


『なんでもっと早く言わないのよ』


って、怒られた。


『今から行こうか?』


優しい奈緒の言葉が、嬉しかった。


「何もないけど、待ってる」


『わかった、適当に何か買っていくね』


奈緒は、有名店のケーキを持って来てくれた。


「ありがと、奈緒」


「おじゃましまーす」



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