20代最後の夜は、あなたと
伊勢くんの友達の紹介で、札幌で一泊することになった。


「一泊だと出張みたいで慌ただしいけど、ホワイトクリスマスだし」


伊勢くんは、とても嬉しそうだった。


今まで通りの私たちに戻り、川島さんは面白くなかったみたいだけど、みんな忙しくてそんなのに構ってられなかった。


霧島課長は、今まで以上に無口になり、私に無茶ぶりばかりしてきた。


12月23日は金曜だけど祝日で、私は荷物をまとめて伊勢くんちに向かおうと夕方に家を出た。


家を出たところで、クラクションの音が聞こえた。


最初の音は、私じゃないと思って無視した。


2回目が鳴った時、さすがに何かと思って振り向いたら、見覚えのある車だった。


バタン、とドアが開き、霧島課長が降りてきた。


「伊勢と出かけるのか?」


「はい、そうです」


「ふーん」


「では、失礼します」


「送るから乗れよ」


「ありがとうございます、でも乗りません」


「荷物あるし、遠慮すんなって」


霧島課長は私の方へ、一歩ずつ近づいてくる。


駅に向かえばいいのに、まるで蛇ににらまれた蛙みたいに動けない。


課長は私の荷物を取ると、車へ戻った。


後部座席に荷物を置き、私に助手席へ座るよう促した。


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