20代最後の夜は、あなたと
「課長、終わりました」


「ありがとな」


「それでは、お先に失礼します。


よいお年をお迎えください」


「待てよ、俺も帰るから。


あと、ハガキはポストに投函しといて」


「・・・はい」


もう、最後の最後まで仕事を押しつけるなんて。


課長は、いそいそと帰り支度をしている。


なんでそんなに嬉しそうなのか、さっぱりわかんないけど。


「待たせたな、帰るぞ」


電気を消して戸締まりをして、エレベーターに乗ってエントランスを出るまで、無言だったと思う。


目の前にあるポストにハガキの束を突っこみ、後ろにいる課長に挨拶しようと振り返ったら、課長が消えていた。


「あれ、課長?」


キョロキョロすると、少し離れたガードレールに寄りかかっていた。


そんなとこで何やってるんだろ、と思って近づいたら、課長は崩れるように座りこんだ。


「ちょ、ちょっと課長、大丈夫ですか?」


思わず駆け寄って手を支えたら、ものすごく熱かった。


首筋にふれると、驚くほど熱い。


「課長、たぶん熱ありますよ。


いつから体調悪いんですか?」


「・・・よくわからない」


弱々しい声で、とても一人にはしておけなかった。



< 168 / 197 >

この作品をシェア

pagetop