20代最後の夜は、あなたと
しばらく様子を見ていたけど、嘔吐したりはしなかったから、寝室を出て課長のコートや上着をハンガーにかけた。


何気なく時計を見たら、もう21時近かった。


心配だし、部屋の鍵を閉められないし、今晩はここで泊まらせてもらおうと思った時、伊勢くんとの約束を思い出した。


あわててスマホを見たら、伊勢くんから着信が何件も入ってた。


すぐ電話したけど、出てくれない。


何度目かのコールで、やっと出てくれた。


「伊勢くん、ごめんね」


『・・・紗和、今どこにいんの?』


「え、えっと、ちょっと残業長引いちゃって」


私は、つい嘘をついた。


『じゃあ、今から来れる?』


「あ、それがね、ちょっと行けなくなっちゃって」


『なんで?』


「えっと、疲れちゃったから、明日でもいい?」


『紗和、なんで本当のこと言わねーの?』


「えっ?」


『いま、霧島課長といるんだろ?』


伊勢くん、なんで知ってるの?


『紗和から残業してるってメッセージきたから、会社まで迎えに行ったんだよ。


そしたら、紗和が課長とタクシー乗るとこだった。


なんで嘘つくんだよ?』


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