20代最後の夜は、あなたと
「あ、あの、私、ちゃんと考えてますから!」


課長の、少しさみしそうな声を聞いたら、思わず口走ってしまった。


『俺にも勝算ありってことか?』


「いえ、まだ、それはちょっと・・・」


『わかったよ、待ってるから。


じゃあ、またな』


「はい、失礼します」


なんであんなこと、言っちゃったんだろ。


まるで、課長のことが好き、って言ったみたいに思えて、急に恥ずかしくなった。


自分の席に戻ってからも、しばらくボーッとしてたらしく、


「すみません、降ります」


と、隣の人が大宮駅手前で立つまで、全然まわりが見えてなかった。


もうすぐ、伊勢くんと会える。


楽しみなようで、ちょっと不安な気持ちもある。


それはたぶん、課長に惹かれはじめている自分を意識してしまったから。


だけど、課長との未来図が描けるのかと聞かれれば、よくわからない。


課長がモテるのは、確かだし。


そもそも、課長にはプロポーズされてないし。


・・・されるわけないか。


伊勢くんに何か不満があるわけじゃない。


札幌へ行くのは不安だけど、海外じゃないんだし、じきに慣れる。


それでも、無条件に伊勢くんを選ぶことができない。


これから、その答えを探そうと思いつつ、東京駅のホームにおりた。


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