20代最後の夜は、あなたと
4月の初め、残業して帰ったら、ポストに手紙が届いていた。


DMとは違う、手書きの宛名だった。


見覚えのある、几帳面な文字。


裏を見ると、やっぱり伊勢くんからだった。


部屋に入り、上着も脱がずに封筒をあけた。


『紗和へ。


俺がいなくて、さみしくて泣いてないか?


手紙を書くことなんてないと思ってたけど、メールだと味気ないし、遠距離っぽいし、いいかと思って。


俺は、長い片想いが終わって幸せだった。


男としてかなわない課長から紗和を奪って、満足だった。


でもやっぱり、課長も紗和もお互い好きなのに気づいて、俺は引くべきだと思ったんだ。


決定的だったのは、紗和が寝言で課長の名前を呼んだことかな。


無意識で呼ぶんだから、よっぽど好きなんだと思った。


あれで、諦めついたってとこかな。


紗和が思ってる以上に、課長はマジメだぞ。


モテるから妬くかもしんないけど、課長は紗和しか見てないから。


紗和も、自分の気持ちを信じて、ぶつかってみろよ。


課長とつきあうなら、俺も許す。


じゃあ、元気でな。』





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