20代最後の夜は、あなたと
雨は容赦なく降り続き、タクシーから降りてマンションのエントランスまでのわずかな距離だけでもひどく濡れた。


「ここです、どうぞ」


「お邪魔します」


「とりあえず、タオルですね」


「おまえだってびしょ濡れだぞ」


玄関に立ったままの課長と、タオルを持って戻った私が、あやうくぶつかりそうになった。


パンプスもグショグショだったから、ストッキングも濡れていたんだろう、床で滑ってしまった。


「ひゃっ」


「おい、走るな」


気づいた時には、課長の胸に飛びこんでいた。


スーツ姿ではわからない、ガッシリした胸と二の腕。


ど、どうしよう。


一刻も早く、離れなきゃ。


なのに、体がいうことをきかない。


その時、気づいた。


動けないのは、課長が私を抱きしめているからってことに。


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