20代最後の夜は、あなたと
ビールを飲み、からあげを食べて、大声で応援して、拍手して、伊勢くんと何度もハイタッチした。


何度も得点が入るシーソーゲームで盛り上がったし、ひいきのチームも勝ったし、私たちはいい気分で球場をあとにした。


混雑する出入口を抜けて駅まで歩き出したとたん、大粒の雨が降ってきた。


「すごい雨、どうしよう?」


「走れるか?」


伊勢くんは、さりげなく私の足元をチェックした。


私はスニーカーだったから、


「だいじょぶ、走ろう!」


と返事した。


伊勢くんは私の手を握ると、適度に引っ張りながらゆっくりめに走ってくれた。


駅に着くと、汗なのか雨なのかわからないけどびしょ濡れだった。


「うわー、濡れちゃった」


伊勢くんは、私を黙って見たあと、


「宮本、タオルかハンカチある?」


と、なぜか目を合わせないまま聞いてきた。


< 81 / 197 >

この作品をシェア

pagetop