20代最後の夜は、あなたと
「気づかなくてごめん、これで拭いて」


私が差し出したハンドタオルを、伊勢くんは黙って受け取って広げると、私の胸元にかけた。


「他の男に見られたら困るだろ」


言われるまで気づかなかったけど、濡れたブラウスが透けてしまい、胸元が目立っていた。


「あ、ありがと」


「家まで送るよ」


「いいよ、遠回りだし」


「そんなカッコで夜道歩いて、何かあったら大変だろ」


優しいんだな、伊勢くん。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


伊勢くんは気まずいのか、あまり話さないまま私の住んでるマンションに着いてしまった。


「あ、うちここだから。


もしよかったら、あがってタオルで拭く?


もう遅いし、帰りたいならここで解散にしよ」


うちの最寄り駅からマンションまでも小雨が降っていて、身体中がしっとり濡れていた。


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