35階から落ちてきた恋
痛むおでこをすりすりとさすりながら涙目で見ると、進藤さんは何故かがっくりとうなだれていた。

「ひどいじゃないですか」
「ひどいのは果菜の方だろうが。鈍感にも程がある」
「私のどこがひどいんですか。デコピンされたのに」

言い合っているとくすくすと笑い声がして私たちの目の前にバーボンのグラスが置かれた。

「お二人とも、お静かに願います。当店は静かにアルコールを楽しむ処ですので」

ハッとして慌てて周りを見回して、目の合った奥の離れた席にいるカップルのお客さんに頭を下げる。
幸い、まだ時間が早いせいか店内には3組しかいない。

「ごめんなさい。うるさくして」
アツシさんにも頭を下げるけれど、進藤さんは知らん顔をしている。

「ちょっと、進藤さんったら」

顔をそむけたまま「おっと、電話だ。ちょっと外す」と言って席を立って行ってしまった。

もう。何なの、あの態度は。


「進藤にあんな顔させるなんて果菜さんって最高だな」
くすくす笑いが止まらないアツシさんにも嫌な顔をしてみせる。
「私、何かしました?私が悪いんですか?」

「うーん、このままじゃあまりに進藤が可哀想だからちょっと助けてやるか」

アツシさんは私に一歩近づいて声を落とした。

「進藤が自分のプライベートが過熱報道されることがあったら表舞台から引くって言ったってことは聞いたんだよね?」
黙って頷く。
「ってことは進藤が堂々と連れ歩いている女性がいたらそれは世間に向かって真剣に交際している相手だから俺たちに構うなよって宣言しているのと同等なんだよ。
もちろん仕事関係で一緒にいる女性だっているだろうけど、それならそんなに二人きりであちこち出かけるわけじゃないだろう?」



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