35階から落ちてきた恋
私だってバカじゃない、身の程知らずの恋だってわかっているからこそ今まで自分の気持ちにフタをして進藤さんのただのファンでいようと恋心を押さえつけてきた。
一緒に出掛けても友人なんだからと思って。

今まで進藤さんの近くにいてどんなに心ときめかせてきたと思っているんだ。
そしてそれを押し殺すことにどれだけ苦労してきたと思っているんだ。

進藤さんにとって私は自分と違う世界にいる女で、違う世界にいるからこそ私といて刺激があって曲作りに生かせるし、医療従事者だから秘密保持もできて、一緒にいて楽しい友人なんだと思う。

「おい、果菜。いつまでも俯いてるな。せっかく一緒にいるんだからちゃんとこっちを見ろ」
頭の上から機嫌悪そうな声が降ってきた。

「う、うん」
おずおずと顔を上げると進藤さんは私の頭をポンっとした。

「邪魔が入ったから、それ飲んだら今夜は引き上げるぞ」
グラスのバーボンをグッと口に含む。

「あ、はい」

私も慌てて残りのカクテルを飲み干して帰り支度をする。
邪魔が入ったって、それはアツシさんのこと?それとも今の電話のこと?
何も言わないから私も何も聞けない。

斜め下からちょっと不機嫌そうに唇をキュッと結んだ進藤さんの顔を見上げる。
何かあったのか顔が険しい。
彼に合わせて私も黙って立ち上がった。
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