35階から落ちてきた恋
程なくしてタクシーは進藤さんのマンションに着き彼に促されて一緒に降りる。
いつものように肩を並べてエントランスに入ると、私ともすっかり顔見知りになっっていたコンシェルジュの男性が「お帰りなさいませ」と頭を下げる。

いつもなら軽く挨拶を交わす程度なのに、今夜は違った。

「進藤様。こちらにも連絡がございました。何かあればお声掛け下さいませ。いつでもお手伝いいたします」
「ありがとう。あまりにも迷惑をかけるようなことになればしばらく留守にするから」

進藤さんはそう言って軽く頭を下げた。

やっぱり何かあったんだ。
何かあったらしいことはわかったし気になるけれど、私が今ここで口を開くときではないこともわかっている。

私も軽く頭を下げて進藤さんに続いてエレベーターに向かった。


部屋に入りリビングのいつもの場所にストンと座る私を見て進藤さんは何故か満足げに笑った。

私が首をかしげると
「果菜、いつものヤツ入れて持ってきて」
と言って寝室に入って行ってしまった。

着替えるのだろう、私もお茶を淹れるために立ち上がった。

さっきの笑顔は何だろうと思いつつも、キッチンに向かいお湯を沸かしはじめる。

エントランスのコンシェルジュとの深刻そうな会話から一転して進藤さんのあの笑顔。
どうにも違和感を感じる。

これを飲んで落ち着いたら私にも話してくれるのだろうか。


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