35階から落ちてきた恋
それから3曲も歌ってミネラルウォーターを飲んでいるといると進藤さんのスマホが鳴る。

「ああ。わかった。ありがとう木田川さん。うん、そっちもよろしく」
私の前で会話をしてすぐに電話は切られた。

電話の相手は木田川さん。
ってことはさっき言ってた『先手を打つ』って話なんだろう。

「今、事務所のホームページでコメントをアップした。この反応を見て俺がコメントを出すか決めることになる。でも、とりあえず果菜はしばらくここから仕事に行って欲しい」

ええ?
「ここからって・・・ま、まさかここに泊まりこみをしろってことですか?」

「そうだね」

「そうだねってそんなあっさりと・・・しかもしばらくって」
私は呆然とする。

「なに?俺と一緒にいるのがそんなに嫌なのか?」

「・・・意地悪ですよ」
イヤなわけがない。
イヤなわけがないけど、気持ちを通じ合わせたのがついさっき。
それでいきなりしばらくここで暮らすとか心の準備も身の回りの荷物の準備も身体の準備(?)もできていない。

「ライブの時だって二晩も一緒に過ごしただろ。それに何かあってからじゃ遅いんだ。いい子だから言うことを聞いてくれ」

何かあってからじゃ遅いということはやっぱり誰かに付きまとわれたり、嫌がらせのようなものがあると思っていた方がいいのだろうか。
彼の部屋へのお泊りの理由が色っぽい話じゃないところも何だか普通じゃなくて私たちらしいのかもしれない。
私もしぶしぶ頷いた。

「わかりました。でも、自分の部屋に荷物を取りに行きたいんですけど」

「それなんだけど・・・」進藤さんが言いかけたところでインターホンが鳴り、こんな夜更けにいったい誰がと私は身体を固くする。

「ああ、心配しなくていい。木田川さんだから」
そう言って進藤さんは玄関に向かっていった。
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