35階から落ちてきた恋
二人きりになると途端に静けさが訪れる。
「おいで」
ラグに座った進藤さんに導かれるまま彼の膝の間に入りすっぽりと背中から抱かれるように座り込む。
「もうすでに嫌になったとか言うなよ」
私の耳元で囁く。
「そう言ったらどうするの?」
からかうように言うと
「離れられないようにしてやるさ」
キスが落ちてきた。うなじに、耳元に、頬に、首すじに。
優しくゆっくりと。
待っているのになかなか唇にそれは来ない。
しばらくして気が付く。ああ、じらしているのか。
恨みがましい目で見上げるとあのフェロモンダダ漏れの進藤さんの目としっかり視線が合った。
「果菜のそんな顔もいいな」
不敵な笑みを浮かべて、また私の唇を避けて鎖骨に唇を這わせていく。
やっぱりわざとか。
そう、そっちがその気なら。
私の胸元に顔をうずめる進藤さんの頭に手をのばし、短めの髪をすくようにゆっくりと撫でる。
そうして顔を寄せて彼の耳たぶになめるようにキスをして・・・噛みついてやった。
「うっ」
うめき声をあげた進藤さんに満足して私はパッと密着する身体を離して立ち上がった。
「明日も仕事だからもう寝ないと。先に洗面所借りますね」
洗面所に向かおうと歩き出した私の手がぐっと強く引かれる。
「やり逃げか、果菜。おもしろい」
あ、マズいと思った時にはもう遅い。オトコの力にかなうはずもなく私は進藤さんに引き寄せられ、そして押し倒されていた。
ラグの上で仰向けにされ、私の身体を押さえつけるようにしている進藤さんと視線が合う。
「やっぱり果菜はおもしろい」
そう言った進藤さんの目はさっきまでのフェロモンダダ漏れの女性を誘うような艶のあるものではなくて、何というか瞳の奥に赤い炎が燃えているような・・・獣のような目だった。