35階から落ちてきた恋
「確かに先月末から今月になって怪しい人が受診してきていたんですよ。多分記者じゃないかって感じの。いかにも仮病ぽかったり、キョロキョロしたり、じーっとナースを見たり。果菜さんと接触させないように受付と奥のナースの連携は完璧でした。帰りも交代でガードしたし」

「怪しい人って結構わかるもんですよね」
「そう、結構楽しかった」
「採血とか注射とかワザと勧めると泣きそうにビビる人もいたね」
「あー、いた、いた」

スタッフたちは口々に盛り上がる。
そんな事があったことも、そんな風に気を遣ってもらっていたとは知らなかった。
たしかに、最近みんなよく働くようになったなとは思っていた。いや、ホントに悪いんだけど、みんなインフルエンザシーズンよりもキビキビと働いていたから。

それに帰りも誘われることが多かった気がする。

「そんなことになってたとは知らず、こっちの勝手で面倒をかけました」
進藤さんがまた頭を下げる。

美乃梨さんに「本当にどうもありがとう」と爽やかな輝くような笑顔をプレゼントしていた。

それからは進藤さんの『LARGOのタカト』としてのファンサービスが始まってサイン、握手とうちのスタッフたちに囲まれていて、気が付けば診療受付開始5分前になり慌てて解散になったのだった。

「果菜、終わったら迎えに来るから勝手に帰るなよ」
進藤さんはまたメガネ、マスク、帽子をしっかりと変装セットを身に着けていつものように私の頭をポンとすると、迎えに来た木田川さんと裏口から出て行った。


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